医療関連感染対策は、安心・安全な医療を提供するために欠かすことのできない医療基盤のひとつです。医療関連感染とは、以前は院内感染といわれていましたが、外来治療、長期療養施設、在宅療養など、医療を受ける場所・機会の拡大に伴い、医療施設で起きるすべての感染を医療関連感染と表現するようになりました。特に当院のように高度な先進医療を行っている施設では、多くの患者さんが易感染状態となるため、医療関連感染をいかに防ぐかが治療の成否に関わってきます。そのためには衛生的な環境を整備し、手指衛生など一定のルールに基づいた感染防止対策を実行し、いったん感染症が発生しても院内に広がらないような最善策を講じるなどの対応が必要となります。このような体制を整備し、維持・発展させていくためには従来の組織では不十分となり、平成28年度より新たに感染制御部が発足しました。
感染制御部は、感染症や感染管理に関する専門的知識・資格および経験を有する医師、看護師、臨床検査技師、薬剤師など多職種から構成され、下記に示すような様々な業務を行っています。特に大きな活動の柱になるのは、感染制御と感染症診療になります。感染制御では、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの各種耐性菌や結核など既存の感染症に対する感染対策の他、新興感染症(高病原性インフルエンザや新型コロナウイルス感染症など)に対しても、情報収集を行いながら適切な感染対策を講じ、患者さん・職員が安全に医療を受けたり実施したりできる体制を作っています。一方で感染症診療では、WHO(世界保健機構)や日本政府が進めている薬剤耐性対策アクションプランに対応するために、抗菌薬適正使用支援プログラム(Antimicrobial Stewardship Program:ASP)をスタートさせております。ASPは、主治医が抗菌薬を使用する際、最大限の治療効果を導くと同時に、有害事象をできるだけ最小限にとどめ、いち早く感染症治療が完了できる(最適化する)ように支援を行なうことを目的としています。抗菌薬使用に関する診療科からのコンサルテーションも積極的に受け入れるなど、感染症治療の支援を強化していきたいと考えます。